- 2025.09.09 技術情報 材料技術
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ゴム製品が引き起こす金属腐食とは?原因と製品寿命を延ばす対策
ゴムのトラブル事例:金属腐食とは
ゴム製品と金属が接触している状態で発生する金属腐食は、ゴムから溶出する特定の成分が原因で引き起こされる現象です。
この現象は「ゴムによる金属腐食」や、特定の金属が腐食する現象から「銅害」などとも呼ばれ、ゴムに接触して使用されたり、ゴムの近辺で使用される金属が、ゴムに含まれる成分の影響によって錆び・腐食・変形等の不具合を生じる現象です。
塩素や臭素といった金属を錆びさせる成分(クロロプレンゴム・ヒドリンゴム・CSMゴム、臭素化ブチルゴム等)を含むゴムは特に腐食性が大きとされ、また、吸湿性のある薬品を配合したゴムでは、水分の影響で近辺の金属を腐食しやすいため注意が必要となります。



ゴムによる金属腐食のメカニズム
ゴムによる金属腐食は、主に以下の2つのメカニズムによって引き起こされます。
1.化学的な腐食反応
【硫黄の作用】
最も一般的な原因は、ゴムの加硫剤として使われる硫黄です。ゴムと金属が接触している状態で、特に高温多湿な環境下では、ゴム中の遊離硫黄が金属と反応し、硫化物を形成します。この硫化物が金属の表面を侵食し、腐食を進行させます。
【ハロゲン化合物の作用】
ゴムの配合剤には、塩素やフッ素といったハロゲンを含むものがあります。これらのハロゲン化合物が加水分解によってハロゲン酸(塩酸、フッ化水素酸など)を生成すると、金属表面の不動態皮膜を破壊し、腐食を促進します。
2.電気化学的な腐食(電食)
ゴムと金属が接触し、その間に水分が存在すると、一種の電池が形成され、このとき、ゴムから溶出したイオン(硫黄イオンなど)が電解質として機能し、金属がイオン化して溶け出す電気化学的な反応が起こります。この現象は、異なる種類の金属が接触している場合(異種金属接触腐食)に特に顕著に現れますが、ゴムと金属の間でも発生する可能性があります。
金属、特に銅や鉄は、水分と反応してイオン化しやすくなります。この金属イオンがゴムのポリマー(分子鎖)の酸化を促進する触媒として働き、ゴム自体を劣化させることがあり、これを「金属イオンによる劣化」と呼びます。逆に、ゴムから溶出した成分が金属表面の不動態皮膜を破壊し、腐食を進行させる場合もありますが、これは、接触する金属の種類や環境(水分、温度など)によって異なります。
ゴムによる腐食が進行する要因
【高温多湿】
化学反応や電気化学反応は、温度や湿度が高い環境で加速されます。
【酸素の存在】
腐食反応には酸素が関与することが多く、ゴムと金属の間に酸素が供給されると腐食が進行しやすくなります。
【応力】
金属に力が加わっている場合、腐食と応力の複合作用で応力腐食割れが発生し、金属の強度が大きく低下することがあります。
これらのメカニズムにより、ゴム製品と金属が接触する箇所では、製品の性能低下、寿命短縮、そして安全性の問題につながる腐食が発生する可能性があります。
以上のように、ゴムの使用用途によってはクレームや不具合の原因となる場合もあるため、使用環境や使用用途に合わせて対策が必要となります。このため、設計段階で腐食を抑制するための適切な材料選定や表面処理が重要となります。
製品に与える影響
ゴム製品が原因で起こる金属腐食は、製品の性能や寿命に深刻な影響を与えます。特にゴムと金属が組み合わされている製品では、この問題が故障や安全性の低下につながる可能性があります。
機能の低下
パッキンやOリングなどのシール材では、金属が腐食して表面が粗くなることで、気密性や液密性が損なわれ、漏れの原因となります。自動車部品などの可動部では、腐食によって摩擦が増加したり、部品の寸法精度が失われたりすることで、スムーズな動作が妨げられ、最終的に機能停止につながることがあります。
製品寿命の短縮
腐食は金属部品の強度を低下させます。特に応力がかかる部分では、腐食が進行することで疲労破壊や応力腐食割れを引き起こし、製品の寿命を大幅に縮めます。これにより、製品全体の信頼性が損なわれ、予期せぬ故障につながるリスクが高まります。
安全性への影響
航空機や自動車、医療機器など、安全性が最重要視される製品では、金属腐食が致命的な事故につながる可能性があります。例えば、ブレーキホースの金属継手や配管の腐食は、液漏れや破裂を引き起こし、重大な事故につながる恐れがあります。
外観の劣化
腐食によって金属表面に錆が発生し、製品の外観が損なわれることがあります。特に消費者向け製品では、これがブランドイメージの低下につながります。
ゴムによる金属腐食を防ぐ方法
この現象は、ゴムと金属が組み合わされて使用される多くの製品、例えばパッキン、シール材、自動車部品、建築資材などで問題となることがあります。
配合剤の選択
腐食を引き起こしやすい硫黄や塩素系の加硫剤・促進剤の使用を避けるか、代替品を使用する。
金属のコーティング
ゴムと接触する金属部分に、防錆コーティング(亜鉛メッキ、防錆塗料など)を施して直接的な接触を防ぐ。
絶縁
ゴムと金属の間に絶縁材(プラスチックなど)を挟み、電気化学的な反応を抑制する。
ゴム材料の選定
腐食成分を含みにくく、耐候性や耐薬品性に優れたゴム(例えば、フッ素ゴムなど)を選定する。
ゴム製品による金属腐食は、製品の寿命や安全性を左右する重要な問題であり、設計段階から適切な材料選定と対策を講じることが不可欠です。
金属腐食の解決事例
製品: 電子機器の精密コネクタ用シール材(ガスケット)
課題:ゴムによる接触銅部品の腐食(銅害)による接続不良と製品寿命の短縮
素材: シリコーンゴム(VMQ)
解決方法
精密コネクタの銅製端子と接触するシリコーンゴム製のガスケットにおいて、高温多湿環境下での使用中に銅端子表面が緑青を帯びた腐食(銅害)を起こし、これにより電気的な接触不良が発生するという課題があります。この原因は、シリコーンゴムの加硫剤に含まれる微量の硫黄成分や、その他の添加剤が銅と反応したことであると特定されるため、解決策として、以下の点の検討が可能となります。
【ゴム材料の配合調整】
硫黄を含まない白金触媒系の付加反応型シリコーンゴムを採用し、加硫時に硫黄が関与する反応を完全に排除することで、銅への腐食因子を根本的に除去することが可能となります。さらに、ゴム中の微量不純物や、銅との反応性が懸念される他の添加剤についても、非腐食性のものへ変更または配合量の最適化の検討を行うことができます。
【成形工程の最適化】
加硫が不十分な場合、未反応の成分が残りやすくなるため、最適な加硫条件(温度・時間)を厳密に管理し、完全に架橋させることで、銅と反応しうる成分の残存リスクを最小限に抑え、成形後の洗浄工程を見直し、表面に付着する可能性のある残留物を除去することで、よりクリーンな表面状態を確保することができます。
これらの対策により、銅端子の腐食が解消され、コネクタの長期的な信頼性と電気的接続安定性が大幅に向上し、結果として、製品の寿命が延び、市場での評価も高まりました。
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ゴムによる金属腐食は、一見すると見過ごされがちですが、製品の信頼性、寿命、そして安全性に直接関わる重要な課題です。最終的には、製品の用途や求められる機能、機能性への影響を個別に判断する必要があります。
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