- 2026.09.08 技術情報 材料技術
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なぜ塗装は剥がれる?製缶板金で起こる「密着不良」の原因と対策
司ゴム電材の松川です。今回は、塗装工程で起こりうる密着不良の要因と再発防止策を解説いたします。

製缶板金製品における塗装は、防錆性や耐候性を確保するための要です。しかし、溶接熱、黒皮(ミルスケール)、複雑な製品構造、残留油剤などの影響により、密着不良が発生しやすい特徴があります。塗膜の密着力は、大きく分けて2つの要素によって決まります。
物理的要素:アンカー効果(塗料が下地表面の細かい凹凸や穴に入り込み、硬化すること)
科学的要素:分子間力(塗膜と素材の分子同士の引合い)
このいずれかが阻害されることで剥離が生じます。
密着不良・塗膜剥離を引き起こす5つの要因
製缶板金の塗装剥離の原因は、大きく5つに分類されます。
① 素地・前処理工程の不具合
黒皮・酸化スケールの残留
熱間圧延材の黒皮やレーザー切断部の酸化膜は脆く不連続なため、そのまま塗装すると素地ごと剥離します。
脱脂不足(加工油・防錆油)
残留油分が塗料の濡れ性を阻害し、分子間力やアンカー効果が得られずハジキや剥離を引き起こします。
化成皮膜・前処理異常
リン酸塩処理液の濃度異常やスラッジ混入は脆い皮膜を形成します。また水洗不足による残留塩分は吸湿フクレの原因となります。
② 溶接・製缶構造に起因する要因
溶接スラグ・スパッタの処理不足
ガラス質や酸化物のスラグ・スパッタは塗料と親和性がなく、振動や熱変化で容易に剥落します。
化学的汚染
CO₂溶接ワイヤ由来のシリカ系スラグの残留は、塗膜密着を著しく阻害します。
構造的隙間・袋構造
内部に溜まった前処理液が乾燥時に蒸気圧となり、塗膜を押し上げたり、内部サビを誘発します。
③ 塗料・調合・塗液管理の不具合
2液型塗料の配合・撹拌ミス
計量誤差や撹拌不足、熟成時間(静置時間)の不足は架橋反応を不完全にして塗膜の凝集力を低下させます。
可使時間(ポットライフ)超過
反応が進み増粘した塗料は、素地への濡れ性や浸透性が低下しアンカーが形成されません。
不適切な希釈
溶解力不足や過剰希釈、蒸発が早すぎるシンナーの使用は、成膜不良や表面乾きを引き起こします。
④ 塗装作業・環境条件の影響
膜厚異常(過大・過小)
厚塗りすぎると硬化収縮による内部応力で剥がれやすくなり、薄すぎるとピンホールから塗膜下サビが進行します。
層間インターバルの不備
下塗りの最大塗り重ね時間を過ぎると上塗りと化学結合せず(層間剥離)、短すぎると下塗りが再膨潤して剥離します。
環境要因・油分混入
高湿度(結露)下での塗装は水膜を挟み密着を阻害します。またエアー配管からの油分・ドレン混入も原因となります。
⑤ 乾燥・焼付工程の不具合
焼付不足(アンダーベーク)
規定温度・時間に達しないと硬化反応が不十分になります。特に極端な板厚差がある製缶品では厚肉部の昇温遅れに注意が必要です。
過剰加熱(オーバーベーク)
高温・長時間加熱による焼きすぎは塗膜を熱分解(劣化)させ、脆化して密着力を低下させます。


塗装剥離再発を防ぐための5つのポイント
① 前処理・素地調整の標準化と強化
| 項目 | 対策内容 | 管理ポイント・目標値 |
|---|---|---|
| スケール除去 | ブラスト(ショット/サンド)またはサンダー研磨の徹底 | ISO 8501-1 Sa2.5以上 |
| 素地粗度 | アンカー効果を高める目荒らし処理 | Rz 25〜50 μm(ショット/サンドブラスト #40〜#60相当) |
| 脱脂管理 | 溶剤・アルカリ脱脂、槽の定期濃度分析 | 水濡れ試験で水膜が30秒保持されること |
| 化成皮膜 | 処理槽の温度・濃度測定、純水水洗による塩分除去 | 洗浄水の電導度(EC)管理 |
② 製缶・溶接設計および加工工程の改善
スラグ・スパッタの完全清掃
エアスケーラー等で除去。スパッタ防止剤は非シリコン系の塗装対応品を選択します。
酸化膜の除去
ステンレスや高張力鋼は酸洗や専用ブラシでメカニカル除去を行います。
構造的隙間のシーリング
可能な限り全周溶接へ変更。隙間が残る場合は2液型変性シーリング材で液溜まりを防ぎます。
③ 塗料選定・調合・塗液管理の標準化
素地に適したプライマー選定
黒皮残存・過酷環境には2液型エポキシ塗料、アルミ・亜鉛メッキにはウレタン系/エッチングプライマーを採用します。
配合・撹拌の徹底
電子天秤による重量比計量(誤差±1g以内)とミキサーによる2〜3分以上の徹底撹拌を実施します。
粘度管理
毎作業前に粘度カップで秒数測定を行い、最適な希釈率を維持します。
④ 塗装環境・塗装作業の管理
結露防止
被塗物表面温度が露点温度+3℃以上、かつ相対湿度85%以下の条件を遵守します。
適正膜厚の施工
膜厚計で日常管理し、コーナー部と平坦部の膜厚差を減らすスプレーワークを標準化します。
インターバルの順守
下塗りが完全硬化した場合は、サンドペーパー(#320〜#400)で足付け(目荒らし)を行ってから上塗りします。
⑤ 乾燥・焼付炉の管理
PMT(被塗物最高到達温度)管理
炉内温度ではなく熱電対で「被塗物表面温度」を直接測定・管理します。
板厚差への配慮
厚肉部が規定条件(例:160℃×20分)に達するよう滞留時間・昇温プロファイルを調整します。
現場で使える「不具合究明」と「検査方法」
原因究明判定表
| 確認ポイント | 判定結果 | 主な原因候補 |
|---|---|---|
| 素地と下塗りの界面で剥離 | 素地が露出 | 素地状態、前処理、脱脂不良 |
| 下塗りは素地に残り、上塗りだけ剥離 | 下塗り/上塗り界面の剥離 | インターバル過長、塗料の相性不良 |
| 塗膜内部で破壊 | 剥離面が脆く粉状・凝集破壊 | 焼付不足、調合比ミス |
| 剥離裏面に錆・粉状物・異物あり | 付着物を確認 | 黒皮、溶接スラグ、アンダー錆、異物残留 |
| 剥離裏面がツルツルできれい | 表面処理状態を確認 | 油分残留、素地粗度不足 |
| MEKで拭くと塗膜が溶ける | 硬化状態に疑い | 硬化不足、配合比ミス |
| MEKで溶けない | MEK以外の要因を確認 | 界面状態、前処理、塗装間隔、素地粗度 |
日常管理および評価手法
クロスカット試験(JIS K 5600-5-6)
1mm/2mm間隔の格子(100マス)にカッターで切込みを入れ、テープ剥離で格子残数を評価します。
引っかき硬度試験(鉛筆法JIS K 5600-5-4)
塗膜表面に硬さの異なる鉛筆を一定の角度・荷重で押し当て、傷がつかない最も硬い鉛筆の硬度で塗膜の引っかき硬度を評価する試験です。塗膜の硬化状態や耐傷つき性を確認するために用いられます。
プルオフ法付着性試験(JIS K 5600-5-7)
ドーリーを接着し、垂直引張強度(MPa)を測定。(判定基準:一般塗膜 2 MPa以上、重防食/エポキシ塗膜 5 MPa以上)
MEKラビングテスト
溶剤を塗布した布で擦り、塗膜の溶け出しやベタつきから硬化度合い(焼付・配合)を判定
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クロスカット(碁盤目試験)
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プルオフ試験 イメージ
製缶板金塗装における密着不良や塗膜剥離は、単一の作業ミスではなく前処理、構造、環境、調合、焼付といった複数工程の不適合が複合して発生します。
特に溶接スラグや酸化被膜といった製缶板金特有の阻害要因を確実に制御することが、品質管理の肝となります。
司ゴムグループでは、要因を論理的に特定して工程全体へフィードバックする管理体制を確立し、塗膜剥離ゼロ化に向けて徹底した品質管理を実施しています。
製缶板金の塗装・密着不良対策のご相談は当社にお任せください
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