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2026.09.15 技術情報 製造技術

ゴムの「へたり」はどう防ぐ?圧縮永久歪の基礎とシール性を維持する設計ポイント

司ゴム電材の松川です。いつもコラムをご覧いただきありがとうございます。
ゴム製品の密封性(シール性)や耐久性を左右する極めて重要な評価指標となる「圧縮永久歪」。本記事では、圧縮永久歪の基礎知識から測定方法、発生原因、さらに設計・製造段階で抑えるための具体的な対策まで、専門メーカーの視点でわかりやすく解説します。

圧縮永久歪とは

ゴム製品(特にパッキンやOリング等のシール材)を圧縮した状態で長期間使用すると、荷重を取り除いた後も元の厚みに完全には戻らず、永久的な変形が残る現象が見られます。この残存変形の割合を示す指標が「圧縮永久歪」です。


すべてのゴム材料において圧縮永久歪は発生しますが、使用条件、材質、配合内容、さらには製品の寸法や形状によって変形量が大きく異なります。



圧縮永久歪の算出と評価


圧縮永久歪試験は、所定の試験装置(締め付け用ボルトと金属板で構成された治具)を用い、試料(標準テストピースや製品)を指定の圧縮率(例:25%など)で固定して行います。(参照:JIS K 6262)





圧縮永久歪の発生原理(物理的変形と化学変化)

圧縮永久歪が発生する要因は、大きく分けて「物理的変形」と「化学変化」の2つが存在します。


①物理的変形

圧縮力によってゴム内部のポリマー鎖や配合剤が位置調整(滑り)を起こすことによる変形です。主に低温域での変形がこれに該当します。低温下ではゴム分子が「凍結」して弾力性を失うため大きな歪量を示しますが、分子構造そのものの破壊(化学変化)を伴わないため、常温に戻すことで温度上昇とともに歪は解消し、元の形状へと復元します。



②化学変化

圧縮された状態でゴム分子に不可逆な化学的反応が生じることによる変形です。主に高温環境下で著しく進行します。熱の影響によって「架橋反応が進行して硬化する」現象と、「高分子鎖が切断されて軟化(分解)する」現象が同時に発生し、圧縮れた状態の形で分子構造が再固定されてしまうため、常温に戻しても大きな変形が半永久的に残ります。





圧縮永久歪に影響を与える4つの要因

①温度の影響

高温環境:

化学反応(架橋進行および分子切断)が加熱により加速するため、常温放置時と比べて非常に大きな歪が残ります。

低温環境:

分子鎖の運動が停止(凍結)して弾性を失い、大きな歪を示します。ただし前述の通り常温に復帰すれば解消されるため、高温時とは発生メカニズムが根本的に異なります。



②時間の影響

高温環境:

時間の経過とともにゴム分子の再架橋や切断分解が進むため、経時的に圧縮永久歪率は増加し続けます。最終的に100%に到達すると反発力はゼロになり、シール機能を完全に喪失します。

低温環境:

圧縮初期の比較的短時間で分子が凍結して大きな歪に達しますが、化学変化を伴わないため、時間の経過によって歪率が著しく増加し続ける傾向は少ないです。



③接触流体の影響

シール対象である各種流体(油、燃料、薬品、水など)と接触することで膨潤・抽出・溶解を起こし、歪特性に大きな変化を与えます。


薬品・可塑剤の流出(抽出):

接触流体によってゴムに配合されている可塑剤やプロセシングオイル等の薬品類が外部へ流出すると、ゴムが収縮・硬化を起こし、気密漏れを引き起こします。

ゴムの膨潤:

流体を吸収して膨潤すると体積が変化し、周囲のハウジングや金属部品に干渉・接触して破損や漏れを誘発します。



④圧縮率の設定

シール性を高めようとして設計時に圧縮率を高く設定しがちですが、実務上は20〜30%程度に設定することが推奨されます。


高圧縮(40%超)のリスク:

圧縮率を極端に高く設定すると、使用時の温度上昇に伴うゴムの熱膨張によって、溝(充填ケース)からはみ出し、かじり・破損を起こす危険性があります。


一般的なシール用途においては、20%程度の圧縮率を維持できれば十分な密封性能を発揮することが可能です。





ゴム材質による特性の違い(材質別比較)

使用するポリマー(ゴム種)の種類によって、本質的な耐へたり性は大きく異なります。一般的な各種ゴム材料の圧縮永久歪特性の比較は以下の通りです。

評価 一般名 ASTM略号 備考・特性の傾向
◎(極めて優秀) ふっ素ゴム FKM 耐熱・耐化学変化性に非常に優れ、へたりにくい
○(良好) アクリルゴム
イソプレンゴム
エチレンプロピレンゴム
シリコーンゴム
スチレンゴム
天然ゴム
ブタジエンゴム
ACM
IR
EPTR/EPDM
Q
SBR
NR
BR
耐熱性や配合内容に応じて優れた復元性を示す
(※シリコーンゴムは高温域で極めて優秀)
△(注意が必要) エピクロルヒドリンゴム
ウレタンゴム
クロロスルフォン化ポリエチレン
クロロプレンゴム
ニトリルゴム
ブチルゴム
CO, ECO
U
CSM
CR
NBR
IIR
汎用的に広く用いられるが、高温や長期圧縮でのヘタリに注意が必要
×(歪みが大きい) 多硫化ゴム T 復元力が低く、へたりが発生しやすい




テストピースと実製品(寸法・形状)における評価の差異

日本産業規格(JIS)などで規定されている圧縮永久歪試験は、標準的な円柱状「テストピース(例:φ29×12.5mm)」を用いて行われるのが一般的です。しかし、実際の製品(Oリングや異形パッキンなど)の歪率は、テストピースの試験データよりも著しく悪化する(歪率が大きくなる)場合があるため、注意しなければなりません。



実測データの比較例(100〜150℃×72時間保持) 硬度70°


ゴム材質 テストピース
(φ29×12.5t)
Oリング P12
(φ2.4×φ11.8)
Oリング P24
(φ3.5×φ23.7)
NBR (100℃) 22% 35% 31%
EPDM (100℃) 15% 28% 24%
CR (100℃) 30% 42% 37%
SBR (100℃) 33% 45% 40%
ウレタン(U) (100℃) 20% 30% 28%
シリコーン(Q) (150℃) 10% 13% 12%
ふっ素(FKM) (150℃) 8% 10% 9%


寸法・形状によって差異が生じる理由


熱伝導の影響:

体積が大きいテストピースに比べ、細いOリング(P12やP24など)は内部まで熱が速やかに伝わり切るため、熱劣化の影響を受けやすくなります。


配合薬品の揮発:

体積が小さい(表面積の割合が大きい)製品形状ほど、ゴム内部に含まれる可塑剤や配合薬品が外部へ揮発しやすく、収縮や硬化を起こしやすくなります。


FKMやシリコーン(Q)で差が少ない理由:

これら高性能ゴムは熱による分解・架橋進行が少ない上、揮発性の配合剤をほとんど含んでいないため、形状による歪率の差が小さく抑えられます。





製品設計における考察と対策

圧縮永久歪による気密漏れやへたりによるトラブルを未然に防止するためには、以下の検討・設計プロセスを徹底することが極めて重要です。



歪率80%を限界値とする材料選定:

想定される使用環境(温度・保持時間・接触媒体)において、圧縮永久歪率が限界値である80%を超えないゴム材質・加硫配合を選択します。


適正な形状設計:

膨潤や熱膨張を考慮し、過度な高圧縮(40%以上)を避けて20〜30%の圧縮率となるよう溝寸法および接触形状を設計します。


「実製品」での評価試験の必須化:

テストピースによるメーカーの標準データは、実製品のシール寿命を正しく示さない場合があります。設計・選定の最終段階では、必ず実際の製品(実機相当のOリングや異形品)を用いた耐久試験を行い、要求寿命を確実に満足することを確認してください。





よくあるご質問

Q.NBRをEPDM程度にする配合は可能ですか?

A.過酸化物加硫だと歪率が低くなりますが、硫黄加硫のみだと限界があるので難しいです。ニトリル量の低いNBRを使えば歪みは低くなるので可能性としてあり得ますが、ブタジエンの量が増えて耐油性能が落ちるので、材質選定の際は使用用途の確認が必要です。



Q.金型の材質で変化しますか?


A.材質では変化せず、温度と時間で変化します。



Q.ふっ素(FKM)の低温時の歪率が知りたい

A.明確なデータ、規格がある訳ではありませんが、一般的なグレードでは-20℃が使用限界とされています。試験の際は-10℃での測定が望ましいです。化学変化(熱劣化)ではなく、応力緩和やゴム分子の流動・凍結(物理的挙動)に起因するので、常温環境で測定すると元に戻るので注意が必要です。



Q.サンプルデータのテストピースはOリングですが、仮に形状を□にした場合に総面積が増えます。その場合も歪率は同等ですか?

A.体積が大きくなると熱の伝わり方が遅いので、歪は小さくなります。Oリングは接触面積が小さいですが□リングは全体で受けるので、歪みは小さくなると思われます。板の場合も同様です。





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